第４章の付録２ 続彷徨
思い出話と言うのは、酒と同様、古いほど芳醇になり甘美になります。思想も熟成されるまである程度の時間を要するものであるといえます。私は当時からあれこれと思いついてはノートに書きこんでいましたが、前日の体験や目前の課題、時事のニュースなどに関するものは一過性のものでしかなく、後で読み返す気になれないので、しばらく其のままにしておいたあとは、塵として焼却していました。本当の記録や思想は紙に書かなくても、目に見えない世界の無限のメモリ装置に書きこまれているようです。
誤解を恐れず言いますと、人間は成仏すると宇宙の全ての思想データを記録した無限のメモリ装置が使えるようになります。インターネットの発想は、実はこの宇宙の実相をコンピュータで模倣したものであります。
私の青年時代の彷徨の思い出は、いまや完全に熟成醸造された酒のごとく悪しき不純物が取り除かれて自己にとって最善のストーリーと化していますので、もし存命中の関係者がこれを読めば疑問を持つかもしれません。釈迦が法華経を説いた時も、そのような疑問を持った人々がいて会場から出ていったというし、キリストも同じくその生い立ちを知る関係者に悟りを伝えることができませんでした。
ニュースソースをそういう肉体的物質的に近い関係者にのみ求めると、芥川龍之介のように、イエスキリストをユダヤ人大工の妻マリアが不義密通をして産んだ子供と捉え、また釈迦を家庭争議に敗れた結果、王城を追い出された妻の連れ子と見なすことになります。
群盲が象を論じると、ある者は尻尾に触れて象とは紐のごとき生き物であるといい、ある者は足に触れて、象とは柱の如きものであるといい、決して相手の説を容れないのです。
私が生長の家の飛田給道場を出ようとする時、田尻氏がやってきました。彼は元三井物産の社員で上海で仕事をしていた老人でしたが、その後アメリカに移住し、生きがいを求めていました。当時の彼の構想では、アメリカにおけるマイノリティ（colored people）がやがてマイノリティでなくなり、アメリカの政権（ｄｉｐｌｏｍａｃｙ）の主役となる。現に南部の市長はほとんど黒人だ。日本人は白人だけを相手にしていてはだめである。今すぐ、東部のユダヤ（ｅｓｔａｂｌｉｓｈｍｅｎｔ）とは違う日米の交流機関をつくる必要がある。と言う事で、力を貸してくれないかと頼まれたので、私は即座にＯＫし、彼と二人で色々な人物を尋ねて行きました。当時まだ意気軒昂で１５０歳まで生きると豪語していた笹川良一氏は、我々を歓待してくれて、私に事務所として彼のビル内にある机と電話を提供してくれました。田尻氏が上海時代に知り合いだった元共同通信の上海支局長をしていた松本重治氏は、当時松下幸之助から１０億円の援助を得て作った国際文化会館の理事長をしていましたが、我々を温かく迎えてくれました。当時第一勧銀の頭取候補であった青木陸軍大臣の長男青木一男氏にも会いました。彼と田尻氏は、青木氏が銀行のＮＹ支店長時代にアメリカで知り合っていたのでした。生長の家関係では、玉置和郎氏（国会議員でした）や和田一夫氏（ヤオハンを経営していました）にも数回会いに行きました。
当時はピーナッツ農場のファーマーであるカーター氏がアメリカ大統領で、風はマイノリティの方へ有利に吹いていました。政治は風次第です。今回の衆議院選挙で都市部で落選した自民党の有力議員はさぞ骨身にしみていることでしょう。自民党の選挙ビラで、民主党は凧である、と書いていましたが政治家は実務以前にまず当選しなければなりません。オラア、オラアと連呼して選挙民を陶酔させた田中真紀子を見習うべきです。
カーター氏は村山富市元総理大臣の言わば先輩で、政治力の無い看板だけの大統領でした。来日した時も、六本木で焼き鳥を食べたり、笹川良一氏の家を訪問して予想に反して余りにも小さい家で驚いたくらいしか記憶にありません。クリントン前大統領は私と同年で、ベトナム戦争を回避してイギリスに留学していたり、高校の時石油メジャーによるケネディ暗殺を体験している点などその後のスキャンダルを含め、同世代として共感できる人物です。アメリカ政治にとってＪＦＫ暗殺は大きなトラウマになっています。
２００１年１月２０日、親子二代とも大統領という共和党のブッシュ氏がアメリカの新大統領に就任しました（参考：ジョージ・Ｗ・ブッシュ大統領）。今のところアメリカによる世界支配の構造は磐石で、人類社会は平和なようです。
石原慎太郎都知事が、宮沢蔵相はアメリカの一上院議員の一喝で黙り込む小心者だという話をしていましたが、戦後日本の政治家で東部のユダヤ資本（ｅｓｔａｂｌｉｓｈｍｅｎｔ）に抵抗して生き残った例はなく、田中角栄はまんまと生贄にされました。私と田尻さんがアメリカのマイノリティに着眼して、日本でその勢力を応援しようなどと大それたことを試みても、表立って協力しようという懐の深い国士愛国者は全く少数でしかありませんでした。ＣＩＡが心配するまでもなく、日本からアメリカ政治をコントロールするのは大変困難なのでやめました。
青年時代の彷徨で、海外で体験したことや仕事で体験したことがたくさんありますが、後で書き込むとして次のテーマである成仏について書こうとおもいます。ここからが、このホームページの真骨頂となる部分であります。