「古事記のものがたり」解釈（１） ２ページへ
はしがき
これから、「古事記のものがたり」（小林晴明・宮崎みどり著/サン・グリーン出版）をテキストにして、古事記に記録された日本建国の神々について現代人にわかり易いように解説します。
現代人は古代人に比べ、圧倒的に多くの五官感覚の情報を所有している割に、宇宙全体との一体感においては古代人に遠く及ばず、劣っていると言えるのであります。この溝を埋めるために「古事記」のような霊感書に触れるとよいわけですが、一般の人々にとって「古事記」の原本は難解な当て字だらけの謎の文書でしかありません。そこで、現代人のために小林晴明さんと宮崎みどりさんが「古事記のものがたり」という本を作ってくれたことは、今日の日本人にとって大きな福音であると思うのであります。お二人に感謝する次第であります。
さて、「古事記」が書かれたのは今から１３００年前のことでした。まだ日本人が文字を持たなかった時代でした。その時代に、ヒエダノアレと言う大変物知りの人物がいたのであります。そして、もう一人太安万侶という漢字が読み書きできる当時としては大変インテリの学者がいたのであります。
政府の仕事として、太安万侶がヒエダノアレを訪ねていき、聞き書きして出来たのが「古事記」という文書であります。全く、文字を持たないヒエダノアレがこんなに沢山の事を知っていたとは驚きであります。
それでは、今から時空を超えて、ヒエダノアレの話を聞いてみましょう。
（文責 青井知三）
第一講。天地創造。
「この世界の始まりは、天も無く、地も無く、時間も空間もない。有るのか無いのかもわからない。混ざり合っているようで、混ざってもいない。ただただうす暗く、もやもやとした状態が果てしなくどこまでも広がっているのでした。呼び名もまだありません。」
人間知（五官感覚）によっては、実相の実在世界を捉えることはできないのであります。世界の始まりの創造の本源世界、実在の世界について、実相と呼んだり神の国と呼んだりしています。人間はこの時間空間を超越した完全な生命世界を直感によって知っています。それで我々は安心して奇跡的な日常生活を送っているのであります。
単に２本足で歩くのさえ、これをロボットにやらせようとすれば大容量のコンピュータを搭載して、ただ歩くだけの為にかなり大量の部品とエネルギーが必要で、ホンダ技研のロボット君はやっと歩けたのでした。
「そのとき、天の中心から、『た・か・あ・ま・は・ら（高天原）』と呼ぶ声が聞こえたように思われました。すると、天と地が分かれだし、たくさんの小さな光の粒がこの世界に現れたのです。あめのみなかぬし（天之御中主）の神でした。宇宙の心そのものであるこの神様は、あらゆるところに満ちあふれておられたために、誰もその姿、形をとらえることができません。」
宇宙の始まりが光であるということは、旧約聖書でも「神始めに光あれ、と言い給いければ光ありき。」と書かれているので、洋の東西を問わず共通する認識であります。物理学でもエネルギーの最小単位が光子という電磁波であると考えています。これ以上微細な物は物質とは認められません。物理的には、光よりちいさい物は何も無いのであります。
しかし、幾らでもちいさい空間があると考えることが出来ます。そこには何があるのでしょうか。人間の五官感覚では最早限界です。しかし、世界は小に向かっても無限にあるように思われます。その通り、世界は大に向かっても無限であり、小に向かっても無限であります。この、五官感覚では捉える事が出来ないけれども、確かにあると考えられる世界、実在の世界に対して我々は無意識に信頼をおいています。ここではっきり意識して、この実在世界を「神の国」または「実相世界」と命名してもよいでしょう。その世界は真善美に満たされていて、完全にして荘厳な理想の世界であると知るとき、人間は心の底から生きていて良かった、と感じられます。無知な人、迷える人はこの世界が光明に満たされた喜びの世界であることを知りません。従って、無知な人は恐怖に怯えて暮らしています。我々は、人類が迷妄から目覚め、輝く希望と喜びに満たされた生活を始めるように教える必要があります。
古事記の原本では、「天地の初発の時、高天原に成りませる神の御名は、天之御中主神」と書かれています。この本源の神様、天之御中主の神とは、光の神であり、喜びの神であります。タカアマハラ、という声は全部ア音でありまして、つまりこれは人々の喜び笑う声である。この世界は津々浦々にまで人々が喜び笑い合う世界なのであります。この楽しい世界が我々が生まれると共に始まる訳であります。人生はこのように幸福に生きるように予め設計されてあるのであります。
「そのつぎに、天からくるくる回転しながら、たかみむすひ（高皇産巣日）の神が現れました。つぎに、地から同じように回りながら現れたのは、かむみむすひ（神皇産巣日）の神でした。この二柱の神々もやはり姿、形が見えないのでした。宇宙の始まりでございます。このあと、たくさんの神様たちがお生まれになりますが、そのお話はまたこの次に。」
天と地、陽と陰、男性と女性、火と水、霊と肉、幽と現、生と死、明と暗、光と影、白と黒、左と右、正と邪、とまあ数えれば切りが無い二元世界でありますが、この二元世界の本源神がタカミムスヒの神とカムミムスヒの神であります。現象世界は基本的に、山と谷、粗と密を往復する波動、またはプラスかマイナスの電荷またはＮＳの磁気のバランス上に成り立っている影の世界であります。コンピュータは微小な電荷をいかなる物質素材に負わせ、移動させ、維持させるかを研究して開発されました。その膨大な情報も単純なる（０、１）に還元され、処理されているのであります。バーチャルな机上の情報ばかりではなく、現象世界はいかに複雑に見えようとも、本質的にただの波動に過ぎず、二元世界であり、幻であり、タカミムスヒとカムミムスヒに還元されてしまうのであります。
世界の本源は善一元であり、天之御中主の神がいるだけでその他に何も無いというのが理念世界、実相世界でありますが、そこにひょっこりと無明（二元世界）が生じたのであります。無明から因縁世界が展開して、ややこしい現象世界が出来たのであります。現象世界は迷いであり、無いのですが、我々の五官感覚はそれをありありと実在するかのように感じるのであります。あるように感じられるけれども本来無いのですから、如何に悪に見えることでも、逆に好ましいことでも、それに執着してはいけません。
「あめのみなかぬし（天之御中主）、たかみむすひ（高皇産巣日）、かむみむすひ（神皇産巣日）、の三柱の神々『造化三神』たちによって、宇宙は始まりましたが、油のようにどろどろとしてまだしっかりと固まっておりません。まるで水の上に浮いた脂のような状態に見えます。海月のようにゆらゆらと漂っているようにも思われます。そんな泥沼のような中から、美しい若芽が萌えるようにしてお生まれになった神様がおられます。うましあしかびひこぢ（宇摩志阿斯訶備比古遅）の神と申しまして、すべての命の素となる神様でございます。つぎに、あめのとこたち（天之常立）の神がお生まれになられ、「よいしょ」と担ぐように、はるか高くまで天を押し広げ支え挙げました。この二柱の神様たちもやはり姿は見えません。」
地球生命の始まりは今から約４０億年前であった、とされています。最初の生物は海中で発生した単細胞生物であったのであります。当時の地球は気象が不安定で、気温差も激しく、激しい雹や雷雨が降るかと思えば、何日もカンカン照りで強い風がびゅうびゅう吹くばかり、気温は摂氏５０度以上にもなる日が何日も続くといった有様で、とてもデリケートな人類が生活できる環境ではありませんでした。地上には一本の草木すらなく、海水は濁って潮流は大きな渦をまいて流れていたのであります。そんな荒れ果てた地球の気象状態でしたが、生命を宿すための試行錯誤が続けられて、やっとその総合システムが立ち上げられたのであります。単細胞生物から人類にいたる地球生命のシステムを立ち上げたのがウマシアシカビヒコジという神様であったと言われています。そして、最終生命体である人類を天下らせるための気象条件を維持するシステムを担当したのがアメノトコタチという神様であったのであります。アメノトコタチは、この美しい青い惑星が何時までも続くように、太陽系の配置や地球の自転や公転の速度を決定し、安定した大気を作ったのであります。今もこれらの神々は生きて働いているのであります。
「あめのみなかぬし（天之御中主）、たかみむすひ（高皇産巣日）、かむみむすひ（神皇産巣日）、うましあしかびひこぢ（宇摩志阿志訶備比古遅）、あめのとこたち（天之常立）、ここまでの五柱の神様たちは『別天（コトアマ）つ神』という特別な神々で、男でもなく女でもない独り神です。大宇宙は、今でもこの目に見えない神様たちによって支配統一されているのです。見えるものよりも、見えないものがこの世界を動かしているのでございます。」
と、ここまでの話で、世界創造の理念が我が地球生命まで及んで語られて来たのであります。遂に地球上に生命が誕生したのであります。つぎに、地上の環境をもう少し整える必要がありました。
「つぎに、くにとこたち（国之常立）の神がお生まれになり、地が永遠に揺るがないように、「こらしょ」とどっしり座り込み、大地を守りました。こうして豊かな天と強固な大地が完成し、はてしのない広々とした宇宙空間ができあがったのです。つぎに、とよくもの（豊雲野）神がお生まれになり、真っ白なふわふわしたいくつもの星雲に姿をかえました。この二柱の神様たちもやはり独り神で性別はなく、姿は見えないのでした。」
かくて人類が生活するのに適した土地と気象条件が調ったのであります。大地には様々な草木が生い茂り、豊かな実をつけ、様々な虫や魚、鳥や獣をそれぞれの環境において養い、人類の快適な生活に協力するように配置したのであります。すべては人類を祝福し、この世界は正しく極楽世界であるように作られたのであります。
「ここにおいて大宇宙はようやく姿、形を整え始めました。そして、このあとからは神様にも性別ができ、男と女の神様が次々と生まれてきました。まず、ういぢに（宇比地邇）、妻のすいちに（須比智邇）のご夫婦が現れて、泥や砂をお産みになりました。その泥や砂を丸めて宇宙に漂っている星雲に投げ、星々の種を造りました。つぎに、おほとのぢ（意冨斗野地）、妻のおほとのべ（大斗之弁）のご夫婦が現れて、星雲と星雲の境界を管理するために、門や戸を産んで出入り口を守られました。つぎに、おもだる（於母陀流）、妻のあやかしこね（阿夜訶古泥）のご夫婦が現れて、あらゆるものの陰陽（男根と女陰）をつかさどり、生産と豊饒の管理をしました。」
さて、話はだんだん人間臭くなって来ました。男と女から子供が生まれ、その子供も生長するにつれて男の子は逞しく、女の子はしなやかに体型が整ってきて、互いに恋い慕うようになり、「まぐはふ」ことによってまた子供がうまれるという繰り返しが人生ドラマのメインテーマであり、この事実はいつまでも興味が尽きない課題であります。
男と女には互いに生殖器官が一つしか付いていませんから、夫婦という一組で完成した状態になるのであります。現在のイスラム社会では公認されていますが、男が一人で妻が四人もいるというのは不自然な家庭であり、無理があります。恋愛の段階においてすら、多くの相手を掛け持ちするとうまくいきません。こうして、夫婦が完成した後は、円満な家庭を維持するためにたくさんの雑事をこなさなければなりません。生活圏（テリトリー）を確保し、自分達の家をつくり、子を産み育て、天地一切の人、物、事と調和して健康に楽しく生きていくには、知恵もいるし、力もいるし、愛と感謝の心も必要です。
アレ（稗田阿礼）の話も、夫婦生活の複雑にして多様な様について、泥や砂を捏ねたり丸めたりするようなもので、それは当人達の心次第でどうにでもなる、三界は唯心の所現である、と言っていると解釈できるのであります。
「そしていよいよつぎに登場するのが、日本人のご先祖となられる、いざなぎ（伊邪那岐）、いざなみ（伊邪那美）のご夫婦の神様なのです。なんだか神様の名前が多くてややこしいことですが、国之常立の神から伊邪那美の神までは『神世七代』と言って『高天原』の誕生にとても重要なお役目を果たされた十七柱の神々でございます。」
いざなぎ（伊邪那岐）、いざなみ（伊邪那美）の子孫である我々はその遺伝子の中に、イザナギ的要素とイザナミ的要素を半分づつ受け継いでいるのであります。イザナギ的要素の主要は霊智、即ち直感力であり、イザナミ的要素の主体を成すのは五官感覚、即ち人間の喜怒哀楽を交えた知識や経験でありまして、男性の方が霊的で女性は物質的性質が多いように出来ているのであります。遺伝子を含む染色体自体、男性より女性の方が一つ多いのであります。
肉欲や物欲も人によりけりではありますが、一般に男性より女性の方が盛んである傾向があります。女は子宮という生殖器官を持ち、子供を体内で養わなければなりませんから、男のように気ままに精子を放出すれば良いという訳にはいきません。それで、物質的欲望も大いに持つ必要があるのです。
「一息で話しましたが、ここまでは百五十億年という気の遠くなるような長い長い年月が流れて、ようやくたどりついたお話です。そうそう、神様を数えるのは、にん（人）ではなくて、一柱（ひとはしら）二柱（ふたはしら）と言って数えます。なにか変ですが昔からこのように言っているのでございます。では、いよいよ次から、日本の国生みがはじまりますが、そのお話はまたこの次に。」
古事記は、私達が神であり、日本国は神の国であると言う実相を、稗田阿礼が霊的直感によって把握して口述した記録であり、この実相を明文化した我が国最初の文書であると言う点に特徴があります。阿礼がしゃべったその真意を汲むには、やはり霊的直感力を必要とするのであります。文言の一字一句にとらわれた法律解釈学者のような古事記解釈をしようとする人間知を捨てなければなりません。仏のみ仏を憶念するのであります。神のみ神を知るのであります。私達は自分自身が古事記に登場する神々の子孫であるという真実に目覚め、自信を持つ事に依ってより一層深い世界の実相を如実に知るに至るのであります。
以上で簡単ながら、第一講、「天地創造」についての解説を終わります。次は、「日本の建国」について。